私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「シリアナ」

2006-03-07 20:49:49 | 映画(さ行)
元CIA工作員の暴露本をもとに、石油利権を巡るCIA、石油企業、アメリカ司法省、アラブ王室の黒い関係を描く問題作。
監督は「トラフィック」の脚本を手がけたスティーヴン・ギャガン。
出演はジョージ・クルーニー、マット・デイモン。ジョージ・クルーニーは本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞。


何とも重厚な作品である。構成には問題あるけれど、見応えがあるのは間違いない。

本作はいくつかのエピソードが最初、並列的に語られる。
CIA工作員、石油企業とアメリカ司法省のために働く弁護士、アラブ王室と繋がりを持つことになるエネルギー・アナリスト、出稼ぎ労働者等である。各種のエピソードは、一見繋がりがあるように見えるのだけど、どうも関係性が薄く、いまひとつ関連させる必然性が見えてこない。加えて場面の転換がやたら起きるので、エピソード中に出てくるキーワードも頭に入ってこず、ストレスがたまる。
そういうこともあり、はっきり言って、前半は退屈にすら感じた。実際、途中退席する人もいたくらいだ。その辺りは同じく群像劇の「クラッシュ」の洗練さには及ばない。
しかし中盤から全体の繋がりが明確になってくるにつれて、ようやく面白くなってくる。

この映画には多くのエゴが登場する。どいつも、自分たちの国の利益のことしか考えず、欲丸出しで卑劣な行動をとることを恥じない。ひどい話である。
そんな中、アラブの王子の理想主義や、CIA工作員がラストにとった行動はアンチエゴイズムとも言うべき行為だ。しかしそれも強大で圧倒的なエゴイスティック国家アメリカの陰謀の前に敗れざるを得ない。
どちらに問題があるかは明確である。しかしそれでもその圧倒的な力の前では正論は押しつぶされて抹消されざるを得ない。

これは無力感に溢れた敗北の物語である。その無力感の重々しさが余韻として残る佳作であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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